不動産屋のおもしろ話 第十四話
僕はいいだしっぺ
「おーい、斉藤君。」
はい、お久しぶりの呼び出しです。どうしました?部長。
「この前の会議であんたが言うとった業務改善プロジェクトの社内コンペはどうなったと?」
「はあ、それが誰も応募したがらないんですよ。」
「なんで誰も応募せんとや?」
「アイデアは色々あるそうですが、特に営業の皆さんは忙しいから余計なこと言って仕事増やしたくないそうです」
「やけんプロジェクトリーダーは企画したやつとは別に選べと言うとろうもん。ほら、あんたのとこに先週入社した早稲田卒のぼっちゃんT君がおったろう。そいつ使って早うやらんか。俺はN社の社長が亡くなったからすぐに埼玉行かないかん。」
「ああ、N社だとちょうどT君の担当なので部長が行くと伝えておきますね。」
帰卓。
「T君、そういうわけでお願いできるかな。」
「わかりました!N社に電話して、社内でコンペ案回収してきます!」
はい、良いお返事です。
「📞すいません、今日の社長のお通夜ですが、何時までやってますか?ちょっとおくれそうなもので・・」
ちょっとまて。
お通夜は、夜通しやるからお通夜だってば。
ほら、なんか会話がかみ合わってない(笑)。
「斉藤さん、遅くなっても大丈夫だそうです!」
「でしょうね。回収宜しく。」
まだ20代だし、そんなものだよね。と思いながら仕事に戻る事30分。
「斉藤さん、回収してきました!」
「ありがとう、ってこれコンペ案違うけど何回収してきた?」
「はい、教えてもらってないのでとりあえず回収してきました。」
「ああ、ごめん。言い方が悪かったか。ところで請求書とか稟議書とか色々混じってるけど、何て言ったの?ついでに戻してきて。」
「斉藤さんに渡すものじゃないんですか?今日はもう定時なので明日もう一回行ってきます。」
うーん。質問に質問で返すのは今どきの若者(あまり使いたくない言葉だけど)なのかな。
あれ?おまえ「コンペ案回収してきます」言わなかったっけ?
言葉が通じない、いわゆる「社内が動物園」なのはよくある話だが、相手から見れば自分もそう思われているのかもしれない。
自分が檻の外か中かは、それぞれの主観によるものだ。
人はそれぞれ自分の正義に従って行動しているから、ぶつかるのは仕方がない。
そう自分に言い聞かせるが、やっぱりもやもやが晴れないので、仲間を誘って夜の街へ向かった。
翌日、ようやく集まったコンペ案を会議で検討した結果、斉藤と営業課長の共同案が採用された。
「じゃあ斉藤君、決まった通りプロジェクト進めとき」
「ん?プロジェクトリーダーは別に選ぶのでは?」
「何ば言いよう。こういうのは言い出しっぺがやるに決まっとろうが。」
ああ、営業の皆さんの正義が正しかった。
*注)この話はたぶんフィクションです。登場する人物・名称等は架空であり、実在のものとはおそらく関係ありません。